姫路靼再現プロジェクトの記録

第4歩 原皮の川漬け

2011.8.18

 ついにプロジェクトの本稼働。本日は、川漬けです。原皮を市川に漬けます。気温は29度。天気はくもり。

 プロジェクトのために、原料皮は特別なもの、赤毛の肉牛を用意しました。これを選んだのは理由があります。現在、皮革生産でもっとも多く使用される原皮の種類は、ホルスタインでしょう。しかし、白黒模様の乳牛は、姫路靼ひめじたんには適さないと考えています。黒い部分の毛根が、黒く残る不安があり、最終的にきれいに仕上がらない可能性があるからです。その点をクリアできそうなのが赤毛でした。

 使用する原皮は3枚。工場内で一枚ずつ広げて状態を確認しながら、縄を通す穴を開けていきました。塩漬け処理されているため、あまり獣臭くなく、その塩は血のせいで少しピンク色に染まっていました。この3枚が、板目皮いためがわ熟革じゅくがわ、姫路靼になっていきます。

 市川沿いの道まではトラックで行けましたが、そこから先が大変。トラックでは水際まで行けないので、足場の悪い川原を一輪車を押して運びました。原皮は1枚、20~30キロぐらいはあり、3枚なら100キロ。昨日、川原の草刈りをして、道をつくっておいてよかったです。原皮の運搬でたっぷり汗をかきました。

姫路靼の川漬け 皮を漬ける場所は、水流を見て決めました。流れが急すぎてもダメ。水かさが深すぎても、浅すぎても適しません。水深40~50センチぐらいになる場所を探しました。結局、高木橋から700メートルほど南に決めたので、当初、考えていた場所よりかなり下流になりました。

 ほどよい水際に陣取れたので、次の作業へ。原皮を川に漬ける下準備です。2工程ありました。

 ひとつめは、川底の石を動かすこと。少し水流が強かったので、流れがゆるやかになるよう石を動かして、川の中に簡易堤防を築きました。同時に、皮をくくりつける土台も石を積んでつくりました。

 川底の石は、すべりやすいので、そろり、そろり......。要注意で歩きました。すべりやすいのは石にコケが生えているせいですが、このコケが姫路靼には欠かせないのです。コケのバクテリアが皮に移ることで、皮に一定の作用をもたらすそうです(詳細は第5歩で)。

 準備のふたつめは、3枚の皮をつなぐこと。皮は1枚ずつではなく、縄でつないだ状態で川に漬けます。1枚目の尻と2枚目の頭、2枚目の尻と3枚目の頭を縄でつなぐと、7~8メートルぐらいの長さになりました。川の中でつなごうと思うと、皮が重くて自由がきかないので、前もってくくっておくことがポイントです。

 午前10時の水温は25度。川漬けする場所の水深は約40センチ。

「そしたら、行こか」。金田の合図で、皮を川に入れました。本日のメインイベントです。皮3枚の重さは100キロほど。投げ入れられないので、4人でずりずり引きずりながら、川の中へ入っていきました。

 皮が流されないよう、築いておいた土台の石にくくりつけ、さらに杭も打ち込みました。それだけだと不安が残るので、縄を長く延ばして水際に生える木に結びつけました。

姫路靼の川漬け この段階のポイントは、皮の流れ方です。水面から10~15センチ、川底から30センチ程度のところを、皮がゆらめくのがよいとされます。本当にゆらゆら、ひらひらと流れるようにするため、調整を繰り返しました。皮に穴を開けて縄を結び直したり、縄をくくりつける土台積み直したり......。

 調整が終わり、川の中をひらひら流れる皮は、とてもきれいでした。泳いでいるようです。皮に近づいて見ると、小魚が寄ってきていました。皮の裏側のニベ(脂肪分)を食べに来たそうです。皮を手に取ると、もう裏側にコケがついて、うっすらと緑色になっていました。

 朝9時すぎに川に着いて、12時前に完了。このまま川に漬けておいて、次は明後日、引き上げです。


8月23日(火) 気温29度 水温25度 曇り