姫路靼再現プロジェクトの記録

第8歩 毛抜き

2011.8.29

 ここまで同じ工程で進めてきた3枚の皮ですが、本日から皮ごとに変わります。No1とNo3の皮は毛抜き作業に入ります。毛根が腐り、毛を簡単に手でむしり取れる部分が多くなっているからです。いっぽう、No2の皮はポリタンク漬けを続行します。他の2枚に比べ、脱毛できる状態まで進んでいませんでした。

ずりっと抜け落ちる脱毛作業………No1、No3の皮

 毛抜き作業に必要な道具は大崎さんが持ってきてくれました。ひとつは、せん包丁です。刀身の両側に柄が付いているのが特徴的。さらにユニークなのは、刃先と峰が、ふつうの包丁や刀の逆で、刃が内側にカーブを描いています。鍛冶職人によると、この逆カーブをつくるのはとても難しいそうです。

 もうひとつは、カマボコと呼ばれる半円柱の木製台です。名前のとおり、かまぼこの形をしています。長さは2メートルほど。せん包丁が包丁なら、カマボコはまな板っていう感じでしょうか。

 午前10時15分、脱毛スタート。細長いカマボコを斜めに傾くようセッティング。一方をビールケースを下にかませて持ち上げて、反対側を地面に着けました。持ち上げた側をお腹で押さえて動かないようにして準備完了。カマボコの上に皮を乗せ、せん包丁を両手で持って構えました。

 そろり、そろり、せん包丁をすべらせます。ずりっと、毛が抜け落ちました。刃が通るたびに、気持ちよく毛が抜けていきます。抜け落ちたあとからは、白い肌が現れました。カミソリでヒゲや髪の毛を剃っているようです。刃の扱いに慣れてくれば、せん包丁を上から下へ押すときだけでなく、下から引き上げるときにも、脱毛できるようになります。力はそれほど必要ありません。ただ、カマボコが動かないよう、腰を曲げっぱなしなので腰が痛くなりました。

「柔らかい部分と、固いとこは、抜け方がえらい違うわ」と、せん包丁に力を込めながら大崎さん。すねの部分が抜けにくいですが、仕方ありません。固い部分に合わせて漬けておくと、毛根だけではなく皮まで腐る部分が出てきます。午前11時に、1枚目終了。45分の作業でした。

姫路靼の脱毛の前後 続けてもう一枚。やはり45分ぐらいかかりました。時間をかけると銀層が腐ってしまうので急ぎましたが、あまり早くなりませんでした。昔は気温の上がらない日の出前にやっていたそうです。

 No1とNo3の皮の脱毛作業が終了。6日前にはふさふさだった赤毛がなくなってしまい、まったく別ものになったように感じます。とにかく最初の関門のクリアです。

 ところで脱毛後の毛ってどうする?「昔は、その毛を使ってフェルトや毛布をつくっていました」と林さん。続けて最近の皮革生産事情を金田が解説。「いまは、薬品を使って脱毛するので、毛は残らない。溶けてしまいます」。

板目皮いためがわ用、熟革じゅくがわ用に保管………No3の皮

 3枚のうち、No1とNo2の皮を使って姫路靼ひめじたんをつくり、 No3の皮で板目皮いためがわ熟革じゅくがわをつくることにしました。毛抜きの終わったNo3は、明日の工程まで何もすることがないので、塩水につけておきました。水20リットル、塩2リットル。腐敗防止のためです。

姫路靼ひめじたん用に塩もみ………No1の皮

 脱毛して白肌になったNo1の皮は、塩もみです。表に2リットル、裏に3リットルの塩をかけて、もみこみました。皮の内部まで染み込むように、足で踏んで、手でもんで......。半日ぐらい延々と続けなければいけません。大変な重労働です。

 昔のひとは偉かったです。今回、とてもじゃないけど12時間もやり切れそうにありません。加えて気温が高いので、早くやらないと皮の品質が落ちてしまいます。この作業をショートカットすることにしました。皮革生産の定番装置・タイコに入れて25分。ぐるんぐるんタイコがまわり、中の皮も一緒にまわって、打ちつけられ、塩が浸透。12時間のところが25分。あっという間でした。

 タイコをまわしたあとは、折りたたんで重しを載せて保存。明日に備えます。


作業終了後の皮の状況
No2 ポリタンク漬け続行
No1 折りたたんで重しを載せて保存
No3 ポリタンクで塩水漬け

8月29日(月) 晴れ